シェイクスピア朗読ワークショップ第5回


準備運動をして、今日はまずは座禅。そしてゆっくり呼吸しながら気を整えます。息を3秒間吸って、6秒吐く。あるいは、4秒吸って8秒吐く、の繰り返しです。眼は閉じないで。まっすぐ前を向いて。頭の中には色々な考えが浮かんできますが、そのまま放っておけばよいです。大切なのは、胸の前の空気をひろく持つこと。宇宙を感じるように。この胸のまえの空気は、役者が舞台に立ったときに大切なものです。

さて、今日はいよいよ最後の発表会に向けて、毎回少しずつ練習してきたハムレットの3幕1場の独白の練習をしっかり行います。今日はとにかく、ひたすら個々に稽古をしましょう。間違わないで読み切るようになることがまずは大切です。ハムレット役者はあの長い台詞を間違えません。『ハムレット』3900行中、2000行くらいがハムレットの台詞であるのもかかわらずです。


個人練習しているところを先生が廻って、細かい発音等の指導をしていきます。


    To be, or not to be, that is the question:


慌てずに、tの音もきちんと出して。Mさんは、割といつも急ぎがちです。落ち着いて。"is the"の zからthをしっかりと、きれいに出すよう心がけて。

英語は日本語よりも子音がはっきりしています。ドイツ語系、ゲルマン系は、フランス語などに比べると、音がごつごつしている。それをはっきり読むと美しくなります。日本人がきれいに読もうとすると、どちらかというとフランス語のようにやわらかく読んでしまう。でもここにあるのは、子音が強い言語の美しさです。


    Or to take arms against a sea of troubles,
    And by opposing end them.


to take のtやopposing のpの音は、あり得ないくらい強く言う。子音を強く言ってもおかしくありません。opposing end themのopposingの後は、しっかり切ること。リンキングが起こらないように。母音ではじまる単語は気をつけないと難しいです。


    To die, to sleep--


dieの破裂音。ぽんと出せるように。sleepのsは伸ばせる音です。そこで躊躇する。sを伸ばせば伸ばすほど、ハムレットが迷っている感じが出ます。


    The heart-ache and the thousand natural shocks
    That flesh is heir to


naturalは、ほとんど一音で出すように。舌は動いているけれど、一音のつもりで。口の中でつむじ風が起こるような感じ。fleshのlの音、流れないように。rの音になってしまうと、意味が変わってしまいますから、気をつけて。


    'tis a consummation
    Devoutly to be wish'd


tis のzは有声音です。tis aのaへのリンキングでばれてしまいます。consummationのnの音をしっかりと。
devoutlyのtlの音を妥協しないでがんばりましょう。妥協せずに練習してゆくと、英語の舌になっていきます。日常会話ではスピードがありますからそうはいきませんが、台詞のように決まったものは、ゆっくりと練習できます。tly がtreeにならないように。lは両側音。lyは「イ」というよりは「エ」に近い。以前も言いましたが、tとlは同じPOAです。tと行ったその舌でlを発します。省エネです。tからlへの政権交代をすばやく、軽やかに。でも、きちんと後継者を育ててからでないと交代はいけません。

そしてvの音は激情の音です。vではじまる単語にはどんなものがあるでしょうか。victory、vivid、 vigor、 virture、 vice、 voice。 強い意味の言葉が多いです。vには訴えかける力があります。だからといって、vも力んで、tlも力んで、と何カ所も力を入れてはいけません。tlは軽やかに。あまり力むとくさくなります。


    To sleep, perchance to dream--ay, there’s the rub,

perchance to dreamは素早く。


    For in that sleep of death what dreams may come,
    When we have shuffled off this mortal coil,
    Must give us pause;


ここで意味について少し質問がありました。shuffledは蛇が皮を脱ぐこと。mortalである人間は、いずれ死ななければならない皮を持っている。その皮を脱いで死の瞬間へ入っていく。その時に一体どんな夢を見るのか、と言っているところです。夢は当時、今よりももっと意味のあるものでした。


mortalのtalはtlのように発音してしまいましょう。pauseは日本人の苦手な発音です。caughtとcoat、boughtとboatの違いが日本人には難しい。かなり英語が上手な方でも、caughtと発音しようとして、「ウ」の音になってしまっている。口を開け続けることが大切です。そして「ウ」の音にならないうちに、tを入れる。zは口を閉じないといけませんから、限りなく「ウ」に近くなるときに、すっと閉じる。「オ」の音が生きているうちに、慌てて閉じてしまってはだめです。


しばらく練習をしてから、今日のまとめとして最後に、一人ずつ今日の段階での中間発表を座ったままで行いました。


Mさんは、よく覚えていてすばらしいです。しかし細かいところが飛んでしまっている。aやtheの一言一句の改変も舞台の台詞ではゆるされません。


Sさん、語頭はがんばっているのですが、語尾がぬけている。end themのmなど。それから、どこへ向かっているかを聴衆に分からせることも大切です。音楽と同じです。アンセルメという指揮者は、「音楽は五の和音へと向かう弾道だ」と言っています。五の和音まで行けば、あとは一の和音に自然と戻る。だから、五に向かっているんだということを聴衆に分からせないといけない。どこがクライマックスなのかを考える必要があります。そして、一番いいところはさらりとやる。その前をクライマックスにします。そのときに、英語の理解力が大事になってきます。Sさんはクライマックスがありませんでした。役者はそれを本能的に、あるいは練習を重ねることでわかっている。それを演奏することがperformすることです。発音の練習には知性は必要ありませんが、台詞を理解するうえでは必要になってきます。


Aさんは、どこに向かっているのか、をもう少し厳密にやった方がよいでしょう。No moreはもう少し安心した感じがよい。そこを、ハイル、ヒットラー!という感じにNo more!と強く読んでしまいました。To sleep perchance to dreamでは、もう少し攻めた方がよい。でも、全体的に元気もよいですし、そのやり方でよいと思います。あとは、どこを抜くかを考えてみる。でも、力を抜きすぎて、だれてしまってはいけません。


Kさんは、言い直しに気をつけましょう。計画を立てることが大切です。間を取ってはいけないところで間を取っている。To die, to sleepは考えているから間を取ってもよい。けれど、To sleep perchance to dreamはもう考えていないから、間を取ってはいけない。台詞の読み方の計画をし直す必要があります。


Sさんは、もう少し英語の基本のリズムに気をつけてみましょう。a seaやa sleepなど、間を止め過ぎです。そんなに止めない。英語の基本のリズムは壊さないように練習してみるとよいでしょう。
 

そうです、発音はそんなに簡単なことではありません。簡単であれば、ワークショップをする必要もありません。他にもリズムの原型が日本語的になりがちな人がいます。みなさんも聞いていて分かると思いますが、人のことはよく分かります。ですから、自分の発音をテープ等に録音して聞いてみるとよいでしょう。はじめはとてもショックです。でもそれを通過しないといけません。発音すべきではない音を行っていたり、あるはずの音を言っていないことに気づくはずです。そして今の段階で大事なのは、よい発音を聴くことです。そしてそれを真似することです。人によって、役者によって、発音や読み方は違います。オリビエのハムレットはゆっくりです。ケネス・ブラナーはもっと速い。それは時代を反映しているのかもしれません。you tubeなどでも視聴できます。

そしてまずは、失敗しない、音を飛ばさない、慌てない、など、negative procedureからはじめます。そこからはじめないと完成しません。

それから、どこをどう読もうか計画します。たとえば、最初は、しずかな沼のように。No more, and by a sleep to say we end..... thousand natural shocksなどはやわらかい音が続き、そういう風が吹いている感じです。しかしその後、To sleep perchance to dreamの辺りから、波風が立つ。ay there's the rub, deathなどこすれる音が、ダダダダと続いて行きます。
計画、演出が必要になります。そうすると、短い台詞であっても、ひとつの名場面になります。プロの演戯を観ることも参考になります。


来週は、いよいよ発表会です。

by 薫