シェイクスピア朗読ワークショップ第6回(最終回)

いよいよ、今日は最終回です。

始まる前に、今日はいつも通りの教室の机を立てて並べて、舞台を用意しました。この中央で、今日、ひとりひとり、最後の成果発表を行います。


 
まずはいつも通り、準備運動から。ラジオ体操、首の運動、揃い踏みを行います。今日は発表会でしっかりとした声を出さなければなりませんので、久しぶりに、呼吸の練習も行いましょう。本来なら毎回行いたいところでしたが、今回のワークショップでは、初回以来やっていませんでした。腹式呼吸の練習です。10秒間まずはお腹にしっかりと息を入れます。そして一気に吐く。何度か繰り返したら、今度は声を出します。なるべく長く声を出し続けていられるように。そのために沢山息を吸って、止めて、声を出す。長く続けるのはなかなか大変です。


さて、発表は最後に行いますので、それまで各自、直前の個人練習を行います。

みなさん、発表直前で緊張した面持ち。最後の確認を必死で行っています。今日の教室には、舞台直前の楽屋裏の緊張感とざわめきがあります。

ある人は部屋の窓に映る自分の姿を見つめながら、ある人は舞台の中央を歩き回りながら、ある人はソファに座って、それぞれに自分の台詞を繰り返し練習しています。先生も参加者のみなさんの間を歩きながら台詞を練習しています。そして、時々、気づいたことをひとりひとりに指摘していきます。

誰かがfleshをfreshと間違えて言っています。rに聞こえないように注意して。

「"Whether 'tis nobler in the mind to suffer" は、in the mind とsufferの間は区切るべきでしょうか。」いえ、基本的には、行の終わりで区切るようにします。

Aさん、声も姿も決然としている感じが良いです。シェイクスピア役者のように喋れています。でも、No moreはあまり元気過ぎないように。静かに。and by a sleep to say we end/The heart-ache and the thousand natural shocksはもう少し楽しそうな感じを出してもよいです。

Sさん、プラス3度、視線の角度をあげるように心がけてみましょう。そうすると、観客が抱く印象が全く違ってくる。見た目が違うと、観客にももっと台詞が響くような効果が生まれます。ある種のラッピング効果です。見映えを良くすることは大切なことです。


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くじで順番を決めて、いよいよ、最後の発表会です。

観客がいないと舞台は成り立ちません。観客が舞台をつくってくれます。発表者以外の人たちが観客となります。また、今日は幸いなことに、見学者が2名いらしてくださったので、いつもの練習とは違ったあたらしい観客もいます。

「本日は、シェイクスピア朗読教室の成果発表会にお越しいただきまして、ありがとうございます」


それぞれ緊張した面持ちで、舞台に中央にひとり立ちます。いつもより観客が多い分、はじまりの沈黙と緊張感は増幅します。まっすぐに前を見て、あるいは少し斜めに構えて、あるいは時々角度を変えながら、必死に台詞を読み進めていきます。舞台にたったひとりの声が響いています。明るく灯る小さな教室が不思議に広がるのを感じます。400年以上前のシェイクスピアが描いたハムレットの夜の深みをひめて。




発表のあとは、みんなで飲み物を飲んだりお菓子を食べたりしながら、最後の懇談会と発表会の反省を行いました。

Sさん、演出が少し足りませんでした。6回でハムレットのこの独白を読もうというのは、たしかに難しいことです。大変なことにみなさん挑戦しました。でも、今回でコツは分かったと思うので、気を良くして、これからも誰かに「聞いて!」と、短くてもいいから聞いてもらうとよいでしょう。

覚えていた方がよかったでしょうか、とSさん。今回は最後の発表まで練習時間があまりありませんでしたので、台本を持ったまま読みました。ハムレットの台詞は似たような言葉が出てくるので、覚えるのは難しいです。覚えるためには、自分用の台本をつくって、ブックマークをつけるなど、工夫することも大切になるでしょう。指揮者はオーケストラの楽譜をすべて覚えていますが、ページの折れた部分などで思い出すとか。

Mさん。はじめはとても良かった。ジョン・ギルグッド風でした。残念ながら、途中で少し台詞を飛ばしてしまいました。練習で出来ていたとしても、舞台に立つと真っ白になって台詞が飛んでしまうということはよくあります。練習の5%くらいしかできない、と思っておいた方がよいです。でも、ハムレットのメランコリーが伝わる発表だった、とSさん。ステージの力がよく働いていました。

Aさんは、言い直しをしてしまったところがありました。これはMさんと同じです。めりはりも、もう少しあるとよかった。でも、全体的にはとても良かったです。リズムをもう少し考えるともっと良くなります。どこでポーズと取るかなどを考えることも必要です。弱強五歩格は行の終わりで区切れます。その区切れは意味の区切れではありません。でも、所々、意味の区切れの方が勝つところもあります。たとえば、To die, to sleep/No moreで切りたい。そして次は一気に読みたい。それはその人のartisticな感性によります。聞いていて落ち着くような意味の区切れを大切にしながらも、音楽的にどうするか。そのバランスを取るのが役者の仕事です。


今日の発表が、みなさん一番良かったです。みなさんが練習を重ねてきたことによって、今日はしっかりとステージの力が働いていました。舞台は、人間を人間以上にしてくれる場です。現実のサイズより大きくしてくれる。そこで役者は実物以上に輝きます。だから役者はやめられません。この教室が終わってからも、各自練習をして、ただ読むだけではなく、誰かに聞いてもらうことで舞台をつくって朗読してみるとよいと思います。


本当に楽しい時間を過ごさせてもらった、とMさん。懇談会の途中で、ハムレットの台詞は途中で忘れてしまったが、若い時に覚えたマクベスの独白ならできる、と再び舞台へ。"Out, out, brief candle!....."

最初に申し込むときにはとても不安だったけれど、思い切って参加してよかった。あと30年早く先生にお会いしたかった、とSさん。隣でうなずくAさんも、第一回のときには、見学だけにしたい、二回目からは参加しないかもしれない、と言っていましたが、いつの間にか、このシェイクスピア朗読教室の先陣を切って活躍していました。「先生、寂しいわ、またやっていただけないの」。

今回は途中までしか出来なかったハムレットの独白、最後まで練習してみてください。最後までできるようになったら、またきかせてください。


by 薫